夕暮れのズルタニ > ヒーローの登場:第十三節

夢のような現実の中で起きたあくむ

ヒーローの登場:第十三節



授業の最中に、窓からとびこんできた
旗火の音、それに続いて吹奏楽のテンポのよい
音楽がきこえてきた。

小高い山の中腹にある小学校から、海を隔てた
向こう側の造船所の間には、音と景色をさまたげる
ものは何もなかったので、僕達は教室の窓を
大パノラマに、町で最大のイベントだった進水式を
手に取るように見る事ができたのだった。

だれかが国語の本読みの最中だったのに
マコト君は吹奏楽を聞いて「ぶちオンチじゃのう」と笑うのだった。
ツトム君も他の同級生も窓の外に目と
耳を集中した。先生も教科書をささえていた腕をやすめた。

向島から聞こえる吹奏楽の調べは
高見山や、大宝山の間で共鳴して
空気の混乱を起こし、ききとりにくくなっていたが
今思えば決して音痴ではなかった。

次の瞬間造船所から無数の風船がそらに舞った。
美術の時間の白だけなくなった絵の具の箱を
空にちらしたように、カラフルでスローな光景を
学校の皆が体感していた。

呆然とたちつくすマコト君たち。
その時、女子のミナミさんと、ヤハタさんが
マコト君の机の中から覗いていた
異物を発見してしまった。彼女達は
僕らの安全な暮らしを脅かす不発弾でも
発見したかのごとき大声で
「あ!マコト君がへんなもんもっとる!」
「ほんまじゃ!おもちゃじゃ!」
何のためらいもなく非常事態宣言を発布した。

マコト君は心の中で「おもちゃじゃなー。エースじゃ」と思い
ツトム君は「あーあー。ばかじゃのう」と声を出した。
ただツトム君の口元が微妙に笑っていたのが
マコト君には面白くなかった。
悔し紛れの「うるさいわ」の声も
外からの音や光景に押し流れていくほどの弱々しいものだった。

机の中には「ウルトラマンエース」の
ソフビ人形があった。
M78星雲から来た戦士だって一定の学力が
必要なのだが、彼女たちには宇宙の平和よりも
男子のミスを糾弾する事のほうが大事だったに違いない。

地球に侵略してくる宇宙人のほうが
よほどマシだ!と思うマコト君だったが
吹奏楽のこだまする中、先生はゆっくりと
机の中から「エース」をとりだし
まるで飼育小屋で死んだウサギの足をつまんで
運ぶように、教壇の机の中に移動していった。
一瞬みえたダラリとした無念のエースの顔は
なぜかすこし両頬がこけて、やつれていた。

このエースがどのようにして地球にやってきたのか
なぜやつれているのかを語ろう。
icon 第二章
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